2017年5月24日不動産ジャーナリスト会議にて宮坂専務理事が行った講演内容をアップします。

不動産ジャーナリスト会議 2017年5月24日プレスクラブ9階

外断熱とは

 

RC躯体の建物がコートを羽織った様なものと考えてください。

コンクリートは蓄熱性が高く、コートを羽

織ることによって室内を一度上げる(下げる)と外気の影響を受けず、一定の室温を保つことが出来ることにより冷暖房経費の抑制に資する。また、家中の温熱環境が一定に保たれるのでヒートショックなどを防ぎ、健康にも資する。

コンクリートの外側に断熱材があるため、躯体のコンクリートの温度が外気の影響を受けにくく、一年を通して大きな温度変化はない。そのため室内と室外の温度差によって生じる壁内結露の発生を防ぐことが出来る。カビの発生を防ぐ。

外断熱では、コンクリートの外側に断熱材があるので一年を通してコンクリートの温度は大きな変化はなく、膨張・収縮がないため、また風雪にも触れないためクラックしにくく、建物の長寿命化につながる。100年以上、最新の研究では300年以上というデータもある。

施工にあって大切なのは断熱材の厚さと連続、熱橋・開口部の処理である。

写真① マルメにおける外断熱

外断熱工法には乾式工法と湿式工法があります

乾式工法とはコンクリートに支持金物を設置してそれで断熱材を施工する工法。水蒸気排出のための通気層があるのが特徴。湿式工法に比べイニシャルコストがかかる。また形状が複雑な建物には不向きでデザイン的な制限を受ける場合がある。

湿式工法とはコンクリートに断熱材を直接接着・密着させる工法。この工法は外壁を断熱材で支えることになるためEPSなどの軽量な断熱材が求められる。また通気層がないため、透湿性を持つ断熱材が必要。

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写真② 乾式工法

③ 湿式工法

 

ヨーロッパではこの二つの工法を合わせて施工する例もあります。

 

外断熱は新築だけではなく改修もあります。

ヨーロッパでは改修も多い

住んだまま改修できる。地場産業の振興に寄与する。建物の長寿命化が図れる。

建物の資産価値が上がる。街並み保存。

新築はもとより改修によって省エネ機器への依存が減少する。

公共建築物はこの改修によって災害時などのライフライン断絶下でも弱者保護等に役立つ。

 

写真④ 外断熱改修

 

日本外断熱協会とは

 

1999年7月、東條会館で環境新聞主催の「史上最大のミステーク」刊行記念講演会、「地球環境問題・エネルギー問題解決へ向けた緊急提言━今すぐ求められる“内断熱”から“外断熱”へのコンクリートシティ革命━ドイツ、スウエーデンからの警告」が開催されました。ドイツのフランフォーファー建築物理研究所のエルホルン教授、スウエーデンのルンド大学のエルムート教授、日本側からは田中お茶の水女子大教授、著者である江本、赤池、金谷氏らが参加され、結露がなくても相対湿度80%でカビが発生すること、内断熱は健康被害をもたらすこと、快適な室内環境は外断熱で得られること、日本の行政・研究機関が失敗をくりかえしていることなどが講演の中で話され、初めて断熱ということを違う視点から考えるきっかけになりました。断熱効果を高めるとは断熱材を厚くすることと単純に考えていたのです。

写真⑤ 講演会報告記事(日建新聞より)

 

同年8月に当時衆議院議員だった佐藤議員と相談をして「マンションの外断熱に関する質問主意書」を内閣に提出することとしました。質問主意書とは議員が内閣に対して質問をすることです。内容は①内断熱と外断熱を比較して、結露を起こしやすいのはどちらか、②同比較して、省エネルギーに有効なのはどちらか、③同比較して躯体のコンクリートが長持ちするのはどちらか、④ドイツとスウエーデンのコンクリートの住宅が石油ショック以降、ほとんどすべてが外断熱となっているのはいかなる理由によると承知しているか、というものでした。9月に内閣総理大臣名で答弁書が来ました。①については「施工の方法温湿度等の受験により内断熱と外断熱の結露の起こしやすさは異なるためどちらが結露を起こしやすいかを一概に断定することは困難と認識、②については「内断熱とするか外断熱にするかにより暖冷房効果の現れ方は異なるが、どちらが効果が高いかを一概に断定することは困難。一般的に熱橋による熱伝導の影響を低減するうえでは外断熱が有効な面があると認識」、③については「鉄筋コンクリート造の住宅の躯体は温度変化、雨水等の影響により経年的に劣化するものでどちらが劣化しにくいかを一概に断定することは困難。なお一般的には外気の温度の影響に対して躯体の膨張、収縮や水分の凍結による亀裂の発生を低減する上では外断熱が有効の面があると認識」、④については「北欧においては寒冷な気候のため短時間の暖房を行うことが一般的ではないこと、外断熱の施工技術が既に定着していると聞いている」というものでした。

あまりに内容のない答弁書であったため、11月に再度質問主意書を提出しました。そして12月に答弁書が来ましたが、「両者の外壁の熱損失量はおおむね5~17%内断熱の方が大きいと認識、外気温の影響を受けにくいことから外断熱の方が躯体の劣化はしにくいものと認識」、といったものでした。

 

その年の11月に札幌へ行き、江本央社長の案内で建設中の外断熱マンションを訪れました。札幌は息を吐くと白い息になるほどの気温でしたが八割がた完成しているマンションの部屋へ入ると石油ストーブ一個がリビングに置かれていました。4LDKの各部屋を見て回りましたが、どの部屋も寒さを感じることはなく、快適でなるほどこれが外断熱の効果かと実感をしたことを覚えています。その後マスコミの方、設計士の方などを伴って3回?程札幌を訪れ、その都度江本社長、堀内さんから外断熱はコンクリート躯体に施す工法であること、外断熱によって躯体の長寿命化が図られること、そのために水回りや配線等のメンテナンス、交換がしやすいように床下などに工夫を凝らしていること、外断熱にも乾式、湿式と異なる工法があること、開口部や熱橋処理の重要性などを話してもらいました。そのマンションは乾式で当時は乾式が主流なのかと思っていました。

写真⑥ 外断熱マンション

 

 センティアム宮の森

 

2001年、外断熱の普及を図ろうと企業、設計士らのメンバーが何度も集まり、そのための運動母体としての組織を作ろうという機運が高まってきました。その一環として2002年9月に「第一回スウエーデン・ドイツ建築物理と外断熱の旅」を実施することになりました。各企業、建築関係者など20名の旅でした。先ず訪れたのはルンド市にあるルンド大学建築物理学部、エルムート博士から断熱,湿気について、ヨハンソン博士から空調の事などを聞きました。マルメ市の外断熱建築現場、外断熱マンションのお宅訪問が中心でした。今回の旅は実際の外断熱の現場を見て体感、実感することが最大の目的でした。理論、理念は理解していても当時の日本には外断熱建築は殆どなかったと考えたからです。ストックホルムでは住宅博の見学、ストックホルム都市計画局からのレクチャー、建設現場の視察、その後ミュンヘンへ移動し、ホルツキルヘンの水蒸気研究所、現地滞在の建築家上田氏からのドイツにおける外断熱の最新事情のレクチャー、建築現場視察、シュットガルトのフランフォーファー建築物理研究所でのエルホルン教授からの建築物理学に関するレクチャーなどが主たる行動でドイツからは鮫島衆院議員も参加されました。私はその後3回ほどスウエーデン・ドイツの外断熱の旅に団長として参加しましたが、この第一回がその後の旅の原点、原型となったと思っております。

帰国後の9月27日、衆議院院内で視察の報告会を開催、鮫島議員も参加されました。この院内報告会の実施が後の超党派「外断熱推進議員連盟」の結成に繋がったと思います。また10月にはHPが開設されこの旅の報告も載せられました。

写真⑦ 「第一回スウエーデン・ドイツ建築物理と外断熱の旅」参加者

 

12月にはこの旅のメンバーが発起人となりNPO外断熱推進会議法人化設立準備委員会を開催し、私は発起人代表として「環境、エネルギー住宅など複数の行政組織に関連する政策の決定にあたって『縦割り』と言われる行政組織は迅速、適切な対応能力を持っていない。このような課題こそNPOの活動が必要とされる。外断熱推進会議は、省エネ、高耐久性で環境に優しく、住む人の健康にも良い、建築物理学に裏打ちされた理想的な住まいが日本にも定着するよう活動を進めたい」と決意を申し述べました。また竹川弁護士による「憲法と外断熱」との記念講演がなされました。

 

2003年1月にはNPO外断熱推進会議法人化設立総会を開催、3月に「設立認証申請書を内閣府に提出、10月には設立認証、11月7日に登記完了、正式に特定非営利活動法人として活動を開始しました。理事長には竹川弁護士、副理事長は田中お茶の水女子大教授、理事・事務局長は堀内さん、私は専務理事ということでした。何人もの方に理事に就任をいただき体制を整えました。

写真⑧ NPO外断熱推進会議法人化設立総会

 

その後先に触れた超党派の衆参両院議員からなる「外断熱推進議員連盟」が自民党の伊藤衆院議員を会長として百名を超える議員の参加を得て発足しました。新潟地震の直後にはNPOとして現地調査を実施、議連を通じて申し入れ等を行いました。何よりも国会議員の方々に外断熱を理解してもらうことが重要と考えていたからです。私も何号か「議連通信」を作り、メンバーの先生方に送ったことを記憶しています。

 

発足時からの活動の中心は外断熱の理解、普及に重点を置いて各地で年に数回のセミナーを開催、会員企業の皆様のご支援もあり、多くの方に参加をいただくことが出来ました。

 

少々話が飛びますが、2004年8月から9月にかけて実施された「スウエーデン・ドイツ団地再生と外断熱の旅」について触れたいと思います。この旅はストックホルムでは都市計画局、住宅公社への訪問、そしてイエテボリでのハンスエイクの無暖房住宅に関する講義、チェルマッシュ工科大学訪問、ハンブルグでのSTO社との懇談、サイロ等のビジネスビル化など多くの改修、新築現場の視察がなされた旅でしたが、最も印象に残るのはハンスエイクの「無暖房住宅」の講義でした。実際に氏が設計をした無暖房住宅を訪れその実際体験もしましたがパッシブハウスに初めて接した経験は後の木造住宅における無暖房を考える上で参考になった記憶が強く残っています。

写真⑨ ハンスエーク氏と無暖房住宅(パッシブハウス)

 

この旅の後、参加者の皆さんへ団長として礼状を送らせていただきましたが、その中で次のように書かせていただいた部分を少しお話いたします。「今回の旅は①外断熱が新築、改修を問わず如何に一般化しているか、②工法については乾式、湿式いずれであれ最も対象に相応しい方式が併用も含めて採られていること、③景観、街並み、住み心地といった「文化」の問題への関心、を実感していただければと考えておりました。(中略)私は今回の旅で改めて『建物の寿命』ということに対する訪問先の考え方を確認致しました。予想通りすべての方から『原則として建物は壊さない』との考え方が示されました。短期のスクラップ&ビルドを当然視してきた戦後の我が国の建築事情との乖離はあまりに大きなものがありますが、改修を含む高耐久化、外断熱工法の普及は(中略)様々な意味で今後の我が国の建築の向かう方向に繋がるように思われます」。これが当時の感想ですが、現在もあまり違っていない様です。

 

写真⑩ 古い建物をコンバージョンして使う

 

ハンスエイクはその後2005年、日本を訪れ長野、京都、東京、札幌などで無暖房住宅セミナーが開催されました。断熱材の厚さに対する日本の建築関係者の関心が薄い中で、建築物理に裏打ちされた断熱材の厚さによる断熱性能の高さが木造住宅であっても無暖房住宅とすることを(高気密、熱交換を伴って)可能としたというハンスエークの実証に裏打ちされた話は断熱材の厚さの意味を再確認させたと言えます。

写真⑪ ハンスエークと筆者

 

2016年5月20日に名称を「日本外断熱協会」と名称変更しました。

 

 

外断熱の普及を妨げているもの

 

外断熱着工面積でいうと2014年のEUでは2億6千万平方メートル、これに対し我が国は60~90万平方メートルです。これはRCの建物ですがこの差はどこからきているのでしょうか。

 

行政の問題としては環境省・経産省は省エネ機器を、国交省は建物の寿命を50年、建てては壊すということを当然のこととしてきました。機器に頼り建物そのものの省エネ性能を高め、資産価値の高い長寿命建築を、という発想はなかったと言えると思います。

 

この建物の寿命という観点で少し考えてみたいと思います。最近、野澤千絵という方が「老いる家、崩れる街 住宅過剰社会の末路」という本を出されました。要点を手短に言うと次のような認識のもとに書かれています。

写真⑫ 「老いる家、崩れる街 住宅過剰社会の末路」(野澤千絵)

 

先ず「私たちは『人口減少社会』なのに『住宅過剰社会』という不思議な国に住んでいます」とした上で住宅過剰社会とは世帯数を大幅に超えた住宅が既にあり、空き家が右上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼き畑的に拡げながら、住宅を大量につくり続ける社会のことです」との定義をしています。日本の世帯総数は約5245万世帯、現在、国内にすでに建っている住宅は2013年度で6063万戸、住宅のストック数は16%も過剰という数字も挙げられています。2015年のデータでは人口1000人当たりの新築住宅着工戸数は日本ではここ20年間、2014年ではイギリスの2.8倍、アメリカの2.3倍、フランスの1.3倍、欧米に比べて新築住宅を大量につくり続けている国ということが出来るのです。売れるから建てるという流れが止まらないのです。そうした住宅市場の問題は様々な要因がありますが私は中古住宅市場が約14.7%と欧米に比して極めて少ないことにも視点を当てることが必要と思います。市場が未成熟なことが新築住宅中心の市場を招いている一要因でもあるのです。本書によればこのまま空き家になった住宅の除去や住宅用途以外への有効活用が進まなければ20年後には空き家率は30.2%、三軒に一軒は空き家ということになるという試算も出ています。マンションも質の悪い建物、管理体制の不備などでスラム化も生じています。

 

住宅、建物の高付加価値化の必要性はこうした観点からも急がれなければならないのではないでしょうか。外断熱の普及がこれからの時代の課題の解決にどう役立っていくかを改めて主張していかねばなりません。制度・政策要求ということにも議連との連携を深めていく必要があります。今までは議連との関係もメンバーに外断熱の優位性を伝えることに活動の中心が置かれていました。それも課題です。私は仕事柄今でも多くの方と名刺交換をする機会が多いのですが、外断熱協会という名刺を渡すと今でも外断熱って何ですか、といった質問をされることが多々あります。そんな方々にはコンクリート建物が毛布を被った工法と言って、夏でも冬でも躯体が外気温の影響を受けないこと、躯体の蓄熱性を話します。

最初から難しいことはいらないんです。この点では初心、原点に返って一般市民へ先ず関心を抱かせることが大切だと思っています。

 

意見と要望

 

次の様な意見・要望が当協会へ寄せられています。

  • 一般人、一般建築関係者の外断熱への理解は不十分ですが関心が高い建築関係者及び行政従事者、政策立案者では理解は深まっているが、外断熱を義務化はできないと変化の感触を得ている。環境、経産省は暖冷房機器の効率性を重視し、設備偏重型の補助金を出している。窓も断熱材に対する効率性は認識され、窓偏重型の補助金を出している。このことの是正が重要と考える。
  • 既存建物の省エネ改修の機運は熟してきているが、現状ではまだまだと思われる。多くの省エネに関する募集要項に外壁の断熱工事を申請する場合、サッシまたは硝子も同時に行うことが支給の条件になっており、反対に窓工事のサッシ、硝子工事の場合は他の工事が必要なく単体で工事が可能になっています。窓の省エネ化を済ませている建物では外断熱改修を望んでも補助金を受けることが出来ません。集合住宅の場合全戸の窓改修が済んでいる場合はもし外断熱改修を行おうとすれば窓交換を行ったことがロスとなってしまう。
  • 既に施行されている政令、法令、各省庁が出しているガイドラインなどに「外断熱」という単語を挿入する様にして欲しい。「外壁への断熱」「外皮性能の向上」などの曖昧な表現がなされているが、建築用語として一般化している「外断熱」を使うべきである。外断熱など外皮性能を強化することは建築物省エネ法などにおいて事実上必須となっているにも関わらず外断熱を推奨する制度、補助金の整備が大きく不足している。
  • ZEH設計ガイドライン第三章、建築物省エネ技術36ページに「外皮断熱技術」とあるが、「外断熱などの外皮断熱技術」と、また41ページの技術の具体例として「高性能断熱材」とあるが、「外断熱工法などによる高性能断熱材の導入」とすべきではないか。

 

平成21年に第三版が出された建築環境・省エネルギー機構発行の「住宅の省エネルギー基準の解説」では断熱工法の選択の項で、現在一般的には内断熱工法が主流となっているが、熱環境や躯体の耐久性の面からは外断熱工法によることが望ましい」とあるが一番大きな問題は外断熱改修は他の大規模改修に比してコストがかかるということである。1.3倍と言われているが、改修後に光熱費が削減でき、次回の大規模改修のコスト、時期も下げられる。

 

2017年4月より建物省エネ法の規制措置が施行される。

 

 

「日本不動産ジャーナリスト会議」とは

土地、住宅、都市問題に対する社会の関心と評価の高まりに的確に対応すべく、それらにかかわるジャーナリストたちが相互に研鑽して資質の向上を図り、オピニオンリーダー的な役割を担おうと、1989年9月に発足した職能集団。

土地・住宅問題・都市問題に関心を持つ一般紙、専門紙、経済誌、住宅誌などの記者・編集者、評論家、ライターなど約50名が加入し、有識者・専門家を囲んでの研修会、視察会などを活発に行っている。

URL: http://journalist.realestate-jp.com/

宮坂幸伸 (コラムニスト 千石 淳一 )

 

昭和44年早稲田大学卒。以後、国鉄の分割・民営化の実現に奔走。分割・民営化実現で身を転じ、社会経済国民会議課長を経て民社党本部入局、機関紙「週刊民社」編集長・労働局次長。

その後防衛庁長官神田厚、岩国哲人政策担当秘書、太陽党の結党に参加。政治改革国民会議にも参加、選挙制度改革に努め、佐藤健一郎政策秘書、参議院予算委員長簗瀬進同秘書。参議院議長秘書官を務める。

この間、平成11年から外断熱推進会議の設立に参画、平成24年まで専務理事を務め、理事長になる。

国鉄問題、生産性向上に関する著書の他、各紙誌に発表した論文、エッセイなど多数。