その6
この建物の寿命ということ観点で少し考えてみたい。野澤千絵という方が三年ほど前「老いる家、崩れる街 住宅過剰社会の到来」という本を出された。
要点は「私たちは『人口減少社会』なのに『住宅過剰社会』という不思議な国に住んでいます」とした上で、「住宅過剰社会とは世帯数を大幅に超えた住宅が既にあり、空き家が右上がりに増えているにもかかわらず、将来世代への深刻な影響を見過ごし、居住地を焼き畑的に拡げながら住宅を大量に作り続ける社会のことです」と定義している。日本の世帯総数は約5245万世帯、現在国内にすでに建っている住宅は2013年度で6063万戸、住宅のストック数は16%も過剰という数字もあげられている。2015年のデータでは人口1000人当たりの新築住宅着工戸数は日本ではここ20年間、2014年ではイギリスの2.8倍、アメリカの2.3倍、フランスの1.3倍、欧米に比べて新築住宅を大量につくり続けている国ということが出来るのである。そうした住宅市場の問題は様々な要因があるが、中古住宅市場が約14.7%と欧米に比して極めて少ないことに視点を当てることが必要である。中古住宅市場が未成熟なことが新築住宅中心の市場を招いている一要因でもある。本書によればこのまま空き家になった住宅の除去や住宅用途以外への有効活用が進まなければ20年後には空き家率は30.2%、三軒に一軒は空き家になると試算を示している。マンションも質の悪い建物、管理体制の不備などでスラム化も現実に生じている。 住宅、建物の高付加価値化の必要性はこうした観点からも急がれねばならない。外断熱工法によるコンクリート躯体建物は居住空間の温度差解消など様々な高付加価値を持っている。ドイツでは2008年からエネルギーパスが義務化された。